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変容する会社と社員の信頼関係〜その危機と解決へのヒント〜

Hirotaka Nakagawa

2023年2月14日

2022 年の後半から、アメリカではコロナ後の揺り戻し現象として、雇用主と従業員との信頼関係に関わる大きなうねりが起きています。テクノロジー業界での大量解雇はもちろんのこと、テレワーク監視ツールの導入や自宅勤務の大幅制限など、職場における「信頼」に大きなヒビが入るような動きが広まっているのです。

会社との「信頼関係」は、ワークカルチャーや企業風土と共に、ポストコロナ時代の今になって再び変貌しつつあります。そこで、このテーマに加えて、テクノロジーが働き方に与える影響や、昨年日本でも注目された「心理的安全性」などについてより理解を深めるため、1,000 人のナレッジワーカー(1 日 6 時間以上コンピュータに向かっている人と定義)を対象として、mmhmm が 2023 年 1 月、アメリカで独自に調査を実施しました。すると、いくつかの深刻な課題が浮上しました。

日本とアメリカでは、雇用環境や職場環境に大きな違いがあることは事実です。ただ、会社(雇用主)と社員(従業員)の間における「信頼」というテーマについての調査結果は、同じメンバーが同じ職場で長い期間一緒に働く日本の企業文化において、特に参考になると思います。本記事では、英語版ブログの記事とは少し違う視点で、「信頼関係」にフォーカスしてご紹介します。

会社と社員の関係性:信頼関係は重視されつつも、実態は低水準

77% の人が「会社に信頼されていないと感じたので辞めた」または「そう感じたら辞める」と回答しているという画像

日本と比べて雇用の流動性が高いアメリカにおいて、企業が社員から信頼を得ること、そして、それを維持することは人材確保のために不可欠です。

仕事を頻繁に変えるというイメージがあるアメリカ人に対しては、会社に対する感情として、もっとビジネスライクなものを想像されているかもしれません。つまり「感情に流されず、互いの利益・効率性を最優先にした関係」です。給料が良いオファーがあれば、新しい企業に移ってしまう、と。

しかし、私たちの調査では、調査対象者の 77% が「会社に信頼されていないと感じたので辞めたことがある」または「そう感じたら会社を辞める」という結果が出ています。一方、74% が「会社に対して不信感を抱いたことがある」そうです。

給与や役職が上がることも重要ですが、信頼関係はアメリカでもやはり重要なようです。会社との信頼といっても、実際に関わるのは「人」であり、同僚、そして上司などと信頼関係を築くことが必要となります。では逆に、その信頼関係を損ねてしまう原因、そして信頼関係を築く方法とはどういったものでしょう。

会社に信頼されないとは「マイクロマネージされる」こと

調査対象の 57% の人は、上司によって業務を常に監視され、詳細にわたって口出しされること、いわゆる「マイクロマネージメント」によって信頼の欠如を感じています。そして会社に信頼されていないと感じる他の理由としては、「頻繁に進捗状況について尋ねられる」(46%)、「ビジネスの成功・人事評価についての不透明性」(34%)、「ミーティングを多数設定される」(29%)が続きます。なお、今回の調査では具体的な設問を設けませんでしたが、一部大手企業で導入されているテレワーク監視ツールの導入も、居心地悪さや会社への不信感に繋がっていることは予想に難くありません。

会社に信頼されるとは「自律性を与えられる」こと

95% の人が「仕事において信頼され、自律的であること」は「重要」と回答しているという画像

逆に、会社に信頼されていると感じるのはどんな時でしょう。私たちの調査で一番多くの人(67%)が選択したのは「決裁権などの自律性を与えられている」こと。その他、「働く時間の柔軟性がある」(51%)、「働く場所の柔軟性がある」(42%)、「会議の数が最小限である」(40%)、「進捗について頻繁に聞かれない」(40%)が続きます。順に細かく見ていきましょう。

上司などの指示を受けず、自律的に決断や決裁を行えることは、会社からの信頼を示す一番重要なポイントであることが分かりました。実際、「仕事において信頼され、自律的であることは重要であるか」という質問に対し、71% が非常に重要である、24% がある程度重要であると回答し、調査対象の実に 95% が重要であると考えています。

働く時間・場所の柔軟性:コロナ禍中に引き続き重要

58% が「自分の働く時間を自分で選びたい」、32% が「同僚が働いているのと同じ時間帯に働きたい」、70% が「非同期型の働き方が、仕事の満足度に重要である」と回答しているという画像

信頼度の高い組織には柔軟性が不可欠であることも分かりました。例えば、社員がいつ・どこで働けるのかなども重要なポイントです。32% の人が「同僚が働いているのと同じ時間帯に働きたい」(つまり、本社の「定時」に一緒に働きたい)と答えているのに対し、58% の人は「自分の働く時間を自分で選びたい」と答えています*1。また、70% の社員は「非同期型*2の働き方が、仕事の満足度に重要である」と答えています。

これらの回答傾向から言えることは、会社やマネージャーが社員に「信頼される」ためには、社員が目の届く範囲にいなくても、また、いつパソコンに向かっているか分からなくても、「彼らは与えられた職務を全うし、仕事をきちんとやっている」と、先に、社員を「信頼する」ことが重要だといえます。このためにもマネージャーは、進捗を「詰める」ことに陥りがちな定期会議に代えて、コーチングが主体のワンオンワン(1on1)スタイルで相談に乗り、最終的には彼らが自律的に働いていけるようにするためのサポートを行うことが必要でしょう。

*1 アメリカには 6 つの標準時があり(東部時間・中部時間・山岳部時間・太平洋時間・アラスカ時間・ハワイ時間)、一番離れた東部時間とハワイ時間には 5 時間の時差があります。例えば、西海岸に本社がある会社では、本社の午前 9 時〜 5 時が、東部時間の 正午 〜 午後 8 時になります。また、グローバル企業ではこの時差がさらに大きくなります。「自分の働く時間を自分で選びたい」には、「自分の好きな時に働きたい」ということ以外に、上記のような「本社の時間帯を意識せず、自分の属する時間帯の一般的な労働時間で働きたい」という人々も含まれます。

*2 会議やチャットなどのコミュニケーションにおいて、リアルタイムでなく、それぞれの時間に合わせたタイミングで行うことを「非同期型コミュニケーション」と呼ぶように、それぞれの場所に合わせた時間帯に働くことを「非同期型の働き方」と呼びます。同じ時間に全員が参加しなくてはならないミーティングの代わりに、録画した動画を送ることで報告を行う、クラウドツールなどを活用して情報共有を行う、などがその働き方の一例です。

会議と心理的安全性:より良い会議運営が切望される

上記に紹介した回答結果ですでに「会議」への疑問が呈されていますが、調査では具体的な質問も設けました。そこで判明したのは、回答者のほとんど(80%)は職場の会議を減らしたいと考えており、その最大の理由(53%)として挙げられたのは、「会議は生産的でない」というものです。非効率的な会議から解放されることで、実際に仕事が行える作業時間が確保できることに加え、時間の使い方の柔軟性を大きく高めることもできます。

「心理的安全性」はどうでしょう。会議で自分の意見を表明することを「常に不安に感じる」(15%)「時々不安に感じる」(29%)といい、そもそも会議で意見を自由に表明しづらい環境にある調査対象者が多いことがわかりました。92% の人は仕事における心理的安全性は重要だと回答しています

心理的安全性が高い職場環境では、個人やチームのパフォーマンスやエンゲージメントが向上することが知られています。会議では、不安を持たずに自由闊達な発言ができる環境を作ることが重要なのは言うまでもありませんが、そもそも会議はしっかり取捨選択し、有意義なもののみを開催することが求められていると言えそうです。

最後に

信頼関係の醸成は一朝一夕では行えません。普段から自分が信頼に足る人間であることを実際の行動で証明し、こちらも相手のことを信頼していることを態度で示し続けなければなりません。

在宅・リモート勤務など、分散型の働き方をする人が増える中、チームの信頼関係を築くことはこれまで以上に重要で、しかも難しくなってきています。不安定な経済社会状況だからこそ、組織が最大限に能力を発揮するには、メンバー間で高い信頼性を保つことが重要です。チームの信頼関係が構築できれば、個人、チーム、そして会社全体としてのパフォーマンス、そして究極的には業績アップや社員の幸せに繋がることでしょう。