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田崎 晴明さん:学生の立場を第一に考えて授業をオンライン化

Hirotaka Nakagawa

2020年12月15日

学習院大学理学部物理学科で教鞭を執る田崎晴明さんは、コロナウイルスの流行により授業をオンライン化せざるを得ない状況になった先生のお一人です。ラジオ講座風の授業から始まったたオンライン授業は、今では Zoom と mmhmm も活用する授業に進化しましたが、音声のみの提供も続けているとのことです。

学生の立場を第一に考え、これまでの授業をいかにオンライン化されたのか。お話を伺いました。

オンライン授業はコロナウイルス後にスタートされたのですか?

はい。私は昔気質の大学の先生なんです(笑)。黒板にチョーク一本で式を書きまくって…というのが私のスタイルでした。しかしこういうことになって、オンラインでやらなければならない。どうしよう、でも、オンラインでも私が学生に教えているという雰囲気を出したい…と必死に考えました。当初は、学生の通信環境も、持っているマシンのスペックも分からない状況です。スマホしか持っていないという学生もいるかもしれない、とか、ネットもみんなが使うと遅くなるのではないか、とか、そんな心配がありました。

そこで考えたのが、ラジオ講座風の授業でした。PDF ファイルの講義ノートを事前に渡して、授業は音声のみ。ノートをダウンロードして授業を聴くというスタイルで立ち上げました。この方法ならスマホ 1 台でも受講できます。

1 年生については、学校に一度も来たことがないわけです。会ったことはないけれど、私の学生たちですから、一生懸命に教えました。授業の後にメールで感想をもらったりして、それに対して返信。楽しいやりとりができました。

完全に深夜ラジオの世界ですね。

普段の授業でも本気で教えつつネタを挟んで笑いを取ることも心がけていたのですが、ラジオ講座授業でも「音声だけで笑わせたい」と思いました(笑)。拙い環境でしたが、学生とはよい関係が作り上げられたと思っています。これが出発点でした。

そこにちょっとずつ動画を足していったんですね。「3 次元空間で 3 本のベクトルがこういう風になっていて…」というのは声と絵だけではやはり説明が難しい。Zoom で動画を撮って、というのを徐々にやり始めているところに mmhmm が出てきました。

mmhmm はどのように発見されたのですか?

ツイッターですね。ちょうど授業のコンテンツ作りに苦労している時期でした。ツイッターでフィルさんのデモを見て、「これだ」と思いました。そして速攻ベータ版の申し込みをしました。それで、周りの人にも話してみたのですが、「何に使うの?」と聞かれて、考えてみるとよくわかりませんでした(笑)。でも、何か絶対にすごそうだと思ったんです。

オンライン授業でも黒板に近いものを使いたいので、mmhmm のスライドを活用しています。iPad で GoodNotes を立ち上げて、その画面を mmhmm 上に共有。その場で手書きすることはしませんが、ノートは手書きのものを使います。

基本は、講義の最初だけ大きな映像で登場して、あとは右隅に小さく映るようにしています。操作に慣れないはじめのうちは私の映像が式を隠してしまったりしましたが、学生からのフィードバックで「式が隠れているのを気にしているようですが、PDF の講義ノートがあるので大丈夫です。それより田崎先生の顔が見えていることのほうが授業を受けているみたいで、安心で嬉しいです」と言われて、ウルウルしました(笑)。

最初に Zoom だけでやっていたときは、画面共有もしていますので、私の姿は画面の端に映っているだけでした。mmhmm を使って共有する画面の中に私が映ることは、やはり全然違います。

一方で、今でも音声のみのファイルと PDF 講義ノートの提供も続けています。私は「ギガに優しい」と言っています(笑)。ギガが足りない学生はそんなにはいないと思いますが、最低のギガで授業を受けられるように。動画は YouTube にあげています。最低、音声と PDF だけでも聴けるように設計しておくのは正しいと思うんです。そうすると説明も丁寧になります。式変形が多いのですが、今までの黒板とは違って、学生に共有するノートのすべての式に番号が振ってあって、「何番の式と何番の式から、何番の式ができます」というように話していて、音声だけを聞いていてもわかるようになっています。動画をやり始めたときにどちらで授業を受けていますか?と聞いたら、ラジオのほうがいい、という学生もいました。

手書きノートを表示する田崎先生の授業風景

使用環境はどんな感じですか?

MacBook Pro と iPad だけです。

新しいものが出るとすごそうだけど、操作などが難しくて一部の人しか使えないのでは、と思ってしまうこともありますが、mmhmm は全然そうでなかったです。

カメラも MacBook Pro に内蔵のもので?

内蔵のカメラを使っています。そういう意味では、私はとてもローテクな人です。物理の業界の人には新しいもの好きな人が多く、自分でスクリプトやコードを書く人もいるけど、自分は書かない。既存のものだけでできることをやります。新しいものが出るとすごそうだけど、操作などが難しくて一部の人しか使えないのでは、と思ってしまうこともありますが、mmhmm は全然そうでなかったです。それなりにいいものが楽しくできるのがいいなと思っています。

他の先生もみなさん苦労されていると思うのですが、情報交換はされているんですか?

こういう時期に一人一人が新しいソリューションを作るのは効率的ではありません。ツイッターのフォロワー数が多いので、頼ります。質問すると、みんなすぐ教えてくれる。そして、ラジオ講座風の授業も、4 月の授業開始前に誰でもそれができるようにノウハウを共有したら、それを見てくれて参考にしてくれる人たちがいた。そして、学内にまとめページを作る人もでてきたりして、こういう時ですからお互いできるだけ情報交換しました。

やはり、ちゃんと教えたい。自分の責任で教えたいじゃないですか。なので一生懸命考えました。そして、せっかく一生懸命考えたのだから、公開しよう…、そんな感じでした。

学会の発表などでも活用していただいていますね。

日本の物理学会は年に 2 回あり、秋季大会は熊本で開催予定でしたが、オンラインでの開催になり、すべて Zoom を使って行われました。私は自分の講演で mmhmm を使いました。講演だけでなく、ウェビナーや国際会議の座長のときにさりげなく使うのもかっこいいですね。物理学会で自作スクリプトを使って座長の画面の背景にタイマーを表示している人がいてすごいなあと思っていたのですが、mmhmm で適当なデスクトップタイマーを表示すれば超簡単に同じことができると気づきました。座長をするときはいつもそうやって残り時間を表示していますが、これも好評です。

タイマーを表示する座長、田崎さんの様子

この間はブラックホールの内部に関するウェビナーに参加したのですが、面白がって縞模様がグニャグニャと動く背景(マーブル)を使ってみました。私が現れるなり「まあ、Hal、何その背景!?」「ブラックホールの中だよ」という感じに盛り上がりました。こういうお遊びが気軽にできるのも mmhmm のいいところですね。

また、私の専門である数理物理の分野の国際的な組織があって、そこで毎週セミナーをやっています。これまではみんなで集まるのは国際会議のときだけでしたが、オンラインでの会議が普通になったので毎週会える。これはパンデミックが終わってからも続けよう、という話になっています。もちろんこれまでもやりたいと思っていましたし、それが可能なテクノロジーがあるのも知っていた。けれど、その使い方を学ぶ機会がなかったんです。今はもうみんながそれを学びましたので、これからも続けると思います。

オンライン授業の今後についてはどうでしょう。

個人的には、オンライン・オンデマンドの授業も残ると思います。直接会いたい部分もあるけれど、オンラインでできる部分もある。

考えなくてはいけないことはたくさんあります。完成度が高いビデオが一度できたら、次の年からもずっとそのビデオを見ればいいと思う人がいるかもしれない。しかし、それを進めていけば、日本で一番授業が上手な人の講義ビデオをみんなが見ればいいということになってしまう。それは絶対に違う。やはり、生身の人間がそのクラスに向かって教えている、そして、今、今年教えているということを維持しながら、オンラインをうまく使うことが重要だと思っています。対面の授業とオンラインを上手に組み合わせる方法を考えているところです。

(このインタビューは実際の発言を編集したものです。)

田崎さんが講義の一部を公開されています。以下に動画の例を一つご紹介しますが、その他の講義はぜひこちらからご覧ください